ハラスメントアンケート調査で見えない声を可視化する―設問例と進め方―

ハラスメントに関するアンケート調査は、職場に潜在する問題を発見し、従業員が安心して働ける環境を構築するための重要な手段です。
この記事では、企業の経営層や人事担当者に向けて、アンケート調査の目的設定から設問設計、実施後の具体的なアクションまで、実務に役立つ一連のプロセスを解説します。
見えにくい従業員の声を可視化し、実効性のあるハラスメント対策を進めるためのノウハウを提供します。
なぜ今、ハラスメントのアンケート調査が求められるのか
近年の法改正により、企業にはハラスメント対策が明確に義務化されました。
厚生労働省が示す指針においても、実態把握の取り組みが求められており、アンケート調査はその有効な手段と位置づけられています。
単なる義務の履行に留まらず、従業員のエンゲージメント向上や離職率低下といった経営課題の解決にもつながるため、その重要性はますます高まっています。
表面化しにくい“職場の声”を拾うための仕組み
ハラスメントは、被害者が報復を恐れたり、相談すること自体をためらったりするため、問題が表面化しにくい特性を持っています。
特に、人間関係が固定化された職場では、直接的な相談窓口だけでは十分に機能しないケースも少なくありません。
匿名で実施されるアンケート調査は、こうした潜在的なリスクを抱える従業員が、心理的な負担を感じることなく自身の経験や意見を表明できる貴重な機会となります。
企業側にとっては、相談として上がってこないインシデントの芽や、組織風土に潜む課題を客観的なデータとして把握するための有効な仕組みです。

ハラスメントの定義と社会的背景(パワハラ・セクハラ・マタハラなど)

ハラスメントには、優越的な関係を背景とした言動であるパワーハラスメント、性的な言動によるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するマタニティハラスメントなど、様々な種類が存在します。
近年、これらのハラスメントに対する社会的な意識は大きく向上し、企業にはより厳格な対応が求められるようになりました。
法改正も進み、事業主には防止措置を講じることが義務付けられています。
アンケート調査は、自社においてどのタイプのハラスメントリスクが高いのかを把握し、対策の優先順位を判断するための基礎資料となります。

相談件数の増加と「予防型」の取り組みへの転換
社会全体の意識向上に伴い、企業の相談窓口に寄せられるハラスメント関連の相談件数は増加傾向にあります。
これは、従業員の権利意識の高まりを示す一方で、企業内のリスクが顕在化している証拠でもあります。
問題が発生してから対応する「事後対応型」の対策だけでは、被害の拡大を防ぎきれず、企業の評判や従業員の士気に深刻な影響を及ぼしかねません。
そのため、アンケート調査を通じてリスクの兆候を早期に発見し、問題が発生する前に対策を講じる「予防型」の取り組みへと転換することが、現代の企業には不可欠となっています。

ハラスメントアンケート調査の目的を明確にする
ハラスメントアンケートを成功させるためには、まず「何のために調査を行うのか」という目的を明確に設定することが不可欠です。
目的が曖昧なままでは、設問設計の軸がぶれ、収集したデータを有効に活用できません。
実態把握、予防啓発、組織改善など、自社が抱える課題に応じて調査の目的を具体的に言語化し、関係者間で共有することが、実効性のある調査への第一歩となります。
「実態把握」「予防啓発」「組織改善」など目的の整理
ハラスメントアンケートの目的は、主に「実態把握」「予防啓発」「組織改善」の三つに大別できます。
まず「実態把握」は、社内でハラスメントがどの程度発生しているか、その種類や傾向を定量的に把握することを指します。
次に「予防啓発」は、アンケートの実施自体を通じて従業員にハラスメントへの注意を喚起し、問題意識を高める効果を狙うものです。
そして「組織改善」は、調査結果からハラスメントの背景にある組織風土やコミュニケーションの課題を特定し、具体的な改善策につなげることを目的とします。
これらの目的を自社の状況に合わせて整理し、優先順位をつけることが重要です。

調査のゴール設定と経営・人事方針とのつなげ方
調査の目的を明確にしたら、次に具体的なゴールを設定します。
例えば、「ハラスメントの発生率を前年比でX%低下させる」「相談窓口の認知度をY%まで向上させる」といった数値目標が考えられます。
このゴールは、企業の経営方針や人事戦略と連動しているべきです。
従業員の定着率向上やエンゲージメントスコアの改善といった大きな目標に対し、ハラスメント対策がどのように貢献するのかを位置づけることで、調査の意義が高まります。
ゴールが明確であれば、それを達成するために必要な調査項目は何か、という視点で設問を設計しやすくなります。

実施前に確認しておくべき倫理・匿名性のルール
ハラスメントアンケートはデリケートな情報を扱うため、実施前に倫理的な配慮と匿名性の確保に関するルールを徹底することが絶対条件です。
まず、回答が人事評価などに一切影響しないことを明確に保証し、従業員に周知徹底します。
また、誰がどのように回答したか個人が特定できないよう、Web調査であればIPアドレスを収集しない設定にしたり、紙の調査であれば無記名で回収ボックスを設置したりするなどの対策が必要です。
自由記述欄で個人が特定できる情報が書かれた際の取り扱いについても、事前にルールを定めておくことで、回答者の心理的安全性を守り、正直な声を引き出すことにつながります。

調査設計のステップ
効果的なハラスメントアンケートを実施するためには、体系的な調査設計が欠かせません。
目的を達成するために、誰を対象に、どのような方法で、どんな内容の質問をするのかを具体的に計画していくプロセスです。
この設計段階の質が、収集できるデータの価値と、その後のアクションプランの精度を大きく左右します。
焦って設問作成に入る前に、全体の骨格をしっかりと固めることが成功の鍵です。
対象範囲の設定(全社/部署別/雇用形態別など)
調査の目的や組織の規模に応じて、対象範囲を適切に設定する必要があります。
全従業員を対象とする全社調査は、組織全体の傾向を把握するのに適していますが、特定の部署や職場で問題が疑われる場合は、その範囲に限定した詳細な調査が有効です。
また、正社員、契約社員、パート・アルバイトといった雇用形態別の分析も、それぞれの立場に特有の課題を浮き彫りにするために重要です。
対象範囲を絞ることで、より具体的で深掘りした質問設計が可能になる一方で、比較対象が少なくなるという側面も考慮し、目的に合わせて最適な範囲を決定します。

実施方法の選定(Web・紙・匿名フォームなど)
調査の実施方法は、対象者の属性や職場の環境を考慮して選定します。
PCの利用が一般的なオフィスワーカーが中心であれば、オンラインで回答できるWebアンケートが効率的かつ集計も容易です。
一方、工場や店舗など、PCにアクセスしにくい環境で働く従業員が多い場合は、紙の調査票を配布する方法が適していることもあります。
匿名性をより重視する場合は、外部の専門機関が提供する匿名フォームを利用するのも一つの選択肢です。
それぞれの方法のメリット・デメリットを理解し、回答率や回答の質を最大限に高められる手法を選ぶことが求められます。
| 実施方法 | 向いている職場 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| WEBアンケート | オフィス中心 | 回答・集計が簡単 | 工場・店舗では使いにくい |
| 紙の調査票 | 工場・店舗 | PC不要で実施可能 | 配布・回収の手間 |
| 匿名フォーム | 匿名性重視 | 本音が出やすい | 費用がかかる場合あり |

集計・分析を意識した質問設計の基本
質問を作成する段階から、最終的な集計や分析のイメージを持っておくことが極めて重要です。
「はい/いいえ」で答える質問や、複数の選択肢から選ぶ質問は集計が容易で、全体の傾向を把握するのに役立ちます。
一方で、自由記述式の質問は、数値化しにくい従業員の生の声や具体的な事例を収集できますが、分析に手間がかかります。
また、部署、役職、勤続年数といった属性情報を質問項目に含めることで、どのような層で問題が発生しやすいかといったクロス集計が可能になります。
これらのバランスを考え、分析したい切り口から逆算して質問を設計することが、有益な示唆を得るための基本です。

本音を引き出す設問づくりのコツ

従業員が安心して本音を回答できるかは、設問の表現や問い方に大きく左右されます。
単にハラスメントの有無を問うだけでは、回答者は身構えてしまい、正直な意見を引き出すのは困難です。
回答者の心理的なハードルを下げ、より実態に近い情報を得るには、具体的な行動や感情、問題の背景にある組織風土にまで踏み込んだ、多角的な設問設計が求められます。
“起きた/見た”行動ベースの質問にする
「パワハラを受けたことがありますか?」といった直接的な問いは、回答者に「パワハラ」の定義を委ねてしまい、主観的な判断に偏る可能性があります。
代わりに、「過去1年間で、能力や人格を否定するような言動を経験したり、見聞きしたりしましたか?」のように、具体的な行動に基づいた質問にすることが有効です。
この形式は、回答者が事実を客観的に振り返りやすく、心理的な抵抗感を和らげる効果があります。
企業側も、どのような行動が問題視されているのかを具体的に把握でき、対策を立てやすくなります。

感情を確認する設問を入れる
ハラスメントは同じ行動であっても受け手の感じ方によってその深刻度が異なります。
そのため、具体的な行動の経験を問うだけでなく、その行動によって「不快に感じた」「脅威に感じた」「仕事への意欲が低下した」といった感情面への影響を確認する設問を設けることが重要です。
これにより、単なる事象の発生頻度だけでなく、従業員に与えている心理的なダメージの大きさを測ることが可能になります。
問題の深刻度を多角的に評価し、優先的に対処すべき課題を特定するための貴重な情報源となります。

組織風土・上司の対応など“背景要因”を聞く質問を加える
ハラスメントは個人の問題だけでなく、組織全体の風土やコミュニケーションのあり方、管理職のマネジメントスタイルといった背景要因から生まれる場合が少なくありません。
「この職場では、異なる意見でも安心して発言できるか」「上司は部下の意見に耳を傾けてくれるか」といった、組織風土に関する質問を加えることで、ハラスメントが発生しやすい環境要因を特定できます。
問題の根本原因にアプローチし、小手先の対策ではない、本質的な組織改善につなげるためには、こうした背景要因を探る視点が不可欠です。

ハラスメントアンケートの設問例
ここでは、ハラスメントアンケートで活用できる具体的な設問例をカテゴリー別に紹介します。
これらの設問はあくまで一例であり、自社の業種や組織文化、そしてアンケートの目的に合わせて内容を調整することが重要です。
設問例を参考に、自社ならではの課題を発見できるようなオリジナルのアンケートを作成してください。
職場環境に関する設問
ハラスメントの温床となりうる組織風土を測るためには、日常的なコミュニケーションや協力体制に関する質問が有効です。
例えば、「職場では、業務上のミスについて個人を非難するのではなく、チームで解決しようとする雰囲気があるか」「上司や同僚に対して、業務に関する意見や提案をしやすい環境だと感じるか」「職場のメンバーは、お互いの多様な価値観や背景を尊重していると思うか」といった設問が挙げられます。
これらの回答から、風通しの良さや心理的安全性のレベルを把握し、組織全体の課題を明らかにすることができます。

経験・認知に関する設問
ハラスメントの具体的な実態を把握するためには、特定の行動の経験や見聞について質問します。
直接的な表現を避け、「過去1年間において、以下のような言動を経験したり、見聞きしたりしたことはありますか」という問いかけに続けて、具体的な行動例をリストアップする形式が効果的です。
例えば、「威圧的な態度や大声での叱責」「プライベートな事柄への過剰な干渉」「性的な冗談やからかい」「特定の従業員を意図的に無視、または仕事から外す行為」などを選択肢として提示し、それぞれの頻度を尋ねることで、客観的なデータを収集します。

相談・対応に関する設問
ハラスメントが発生した際の会社の対応体制が機能しているかを確認することも重要です。
まず「ハラスメントに関する相談窓口が社内に設置されていることを知っているか」という認知度を問う質問は基本となります。
さらに「もしハラスメントの問題が起きた場合安心して相談できると感じるか」「会社はハラスメントに対して公正かつ適切に対処してくれると思うか」といった信頼度や期待感を問う設問も有効です。
これらの回答は相談窓口の周知方法や運用体制の見直しを検討する上で貴重な判断材料となります。

実施と報告のポイント

アンケート調査の価値は、その実施プロセスと結果報告の丁寧さによって大きく変わります。
従業員からの信頼を得て、正直な回答を引き出し、調査結果を建設的な改善活動へとつなげるためには、計画段階から細心の注意を払う必要があります。
特に、匿名性の担保と結果の共有方法については、慎重な設計が求められます。
匿名性を担保し、回答者の心理的安全性を守る
アンケートの回答率と回答の質を左右する最も重要な要素は、匿名性が完全に守られているという従業員の信頼です。
Webシステムを利用する場合は、回答者のIPアドレスやログイン情報を記録しない設定にするなど、技術的な担保が不可欠です。
また、自由記述欄では個人が特定できるような情報を書かないよう注意喚起することも重要です。
アンケートの冒頭で、回答データがどのように扱われ、個人が特定されることは絶対にないと明確に宣言することで、回答者は安心して本音を表明することができます。

結果の共有範囲・報告方法を慎重に設計する
調査結果の共有は、透明性を確保し改善へのコミットメントを示す上で重要ですが、その範囲と方法は慎重に検討する必要があります。
まず、詳細な分析結果は経営層や人事部門で共有し、課題の特定と対策の方向性を決定します。
次に、管理職層には、自部署の状況を理解しマネジメント改善に活かしてもらうためのフィードバックを行います。
全従業員へは、個人や部署が特定できない形で全体の傾向や課題、そして会社として今後どのように取り組んでいくのかという方針を共有します。
誰に何を伝えるかを明確に設計することで、不必要な憶測や不安を招くことなく、前向きな対話を促進します。

“結果を出す”より“改善につなげる”視点でまとめる
調査結果の報告は、単に数値の良し悪しを示すことが目的ではありません。
重要なのは、そのデータから何を読み解き、どのような組織改善のアクションにつなげるかという視点です。
報告書では、ハラスメントの発生率といったネガティブな側面だけでなく、職場環境に関するポジティブな評価も示すことで、客観的な現状認識を促します。
そして、明らかになった課題に対して「なぜそうなっているのか」という背景を考察し、具体的な改善策の提案まで含めることで、調査を次への一歩とする建設的なメッセージを発信することができます。

調査後のアクションとフォローアップ
ハラスメントアンケートは、実施して終わりではありません。
むしろ、調査後の対応こそが最も重要であり、企業の姿勢が問われる部分です。
収集したデータを分析して課題を特定し、具体的な改善策に落とし込み、その進捗を継続的に見守るという一連のプロセスを確実に実行することが、従業員の信頼を得て、実効性のある対策を実現する鍵となります。
データ分析から課題を抽出する
アンケートの集計データは、多角的な視点から分析することで、より深い示唆を得られます。
全体の傾向を把握するだけでなく、部署別、役職別、男女別、勤続年数別などの属性でクロス集計を行い、特定の層で課題が顕著になっていないかを確認します。
例えば、特定の部署で否定的な回答が集中している場合、その部署のマネジメントや業務環境に問題がある可能性が考えられます。
また、自由記述のコメントをキーワードで分類・分析することで、数値データだけでは見えない具体的な問題点や、従業員の切実な声を拾い上げることができます。

再発防止・研修・組織改善への落とし込み
分析によって抽出された課題に基づき、具体的なアクションプランを策定します。
課題が管理職のマネジメントスキルに起因するものであれば、ハラスメント防止やコミュニケーションに関する研修を実施します。
相談窓口の認知度が低いという結果が出たなら、ポスター掲示や社内報での告知を強化するなどの対策が必要です。
また、特定の部署の人間関係に問題がある場合は、人事部が介入してヒアリングを行ったり、チームビルディングの施策を導入したりすることも考えられます。
課題の根本原因にアプローチし、実効性のある打ち手を計画・実行することが求められます。

継続的に実施することで“変化の兆し”を可視化する
ハラスメント対策は、一度の取り組みで完了するものではありません。
アンケート調査を年に1回など定期的に実施することで、組織の変化を定点観測できます。
これにより、導入した施策がどの程度効果を上げているのかを客観的に評価できるだけでなく、新たな問題の兆候を早期に察知することも可能になります。
継続的な調査は、ハラスメント対策に対する会社の真剣な姿勢を従業員に示すことにもつながり、組織全体の改善サイクルを回していく上で不可欠なプロセスです。

まとめ|アンケート調査で信頼される職場をつくる
ハラスメントアンケート調査は、職場に潜む声なき声を拾い上げ、組織の課題を可視化するための強力なツールです。
しかし、その真価は、調査結果を真摯に受け止め、具体的な改善行動へとつなげる企業の姿勢によって決まります。
アンケートは、従業員との対話の機会であり、信頼される職場環境を築くための重要な一歩と捉えるべきです。
“声が届く環境”づくりがハラスメント対策の第一歩
ハラスメント対策の根幹は、従業員一人ひとりが「何か問題があれば、この会社はきちんと耳を傾けてくれる」と信じられる環境を構築することにあります。
アンケート調査は、そのための具体的な仕組みであり、経営層が従業員の声に関心を持っているという明確なメッセージとなります。
匿名で安心して意見を表明できる場を提供することは、相談窓口のハードルを高く感じている従業員にとってのセーフティネットとなり、問題の未然防止や早期発見につながる重要な取り組みです。

実施→分析→改善のサイクルを定着させる
ハラスメントアンケートを単発のイベントで終わらせず、その後の分析と改善アクションまでを含めた一連のサイクルとして組織に定着させることが、持続的な効果を生み出します。
調査で明らかになった課題に対し、誠実に対応し、改善に向けた取り組みを継続的に示すことで、従業員の会社に対する信頼感は醸成されます。
この「実施・分析・改善」のサイクルを回し続けることが、ハラスメントのリスクを低減させるだけでなく、従業員が安心して能力を発揮できる、エンゲージメントの高い組織文化を育むことにつながります。

ハラスメントアンケート調査を「実行できる施策」に落とし込むために
株式会社オノフは、定量・定性リサーチの設計から分析、そこからの施策設計・デジタル実装までを一気通貫で支援しているマーケティング支援会社です。
ハラスメントアンケートのようなセンシティブなテーマにおいても、顧客インサイト起点で設問設計・分析を行い、単なる調査で終わらせず、組織改善やコミュニケーション施策につなげることを重視しています。
「アンケートは実施したが、どう活用すればよいかわからない」「結果を具体的な改善アクションに落とし込みたい」
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